タバコを吸っているなど、ほかにも問題があれば、心筋梗塞へ進展する危険性はいっそう高いものとなるため、体重にかぎらず生活習慣全般の改善が必要となる。
心電図は、太っている人にとって必須の検査なのである。
血管の表面をみるこれまでみてきた血圧、脈拍数、脈波伝播速度、心電図などは、いずれも肥満のチェックに有効な検査ではあるが、血管を間接的にしかみていないという欠点をかかえている。
幸い、血管の様子を映像としてみることができる方法がある。その一つは、人間ドックなどでも行われている眼底検査である。
眼底には網膜があり、そこに写った映像は神経信号となって、脳へ送られる。したがって網膜が傷害されれば失明ということになる。この眼底は、体の中の血管を肉眼で確認できる唯一の場所でもある。これを特殊なカメラで撮影することによって、動脈硬化の程度が判定できるのである。
肥満のチェックには欠かせない検査となる。
超音波(エコー)検査は、血管を眼でみることのできるもう一つの方法となる。
超音波は、人体の中を非常に速いスピードで伝わっていく。その途中で、性質の異なる二つの物質の境界面に行きあたると、一部が反射して、もどってくるという性質がある。その反射波(エコー)のわずかな時間差を映像化することによって断面像がみえるようになる。これがエコー検査の原理だ。
この原理にしたがえば、理屈の上では、どの血管の断面像でも再現できることになるが、実際には、検査の簡便さから首の動脈(瓢鋸嘩)が選ばれることが多い。
頚動脈の動脈硬化症で特に問題となるのは、コレステロールのかたまくが、何かの拍子にはがれてしまうことである。はがれたかたまくは血流にのく、瞬時にして脳血管につまり、程度の差はあれ脳梗塞(脳卒中の一つ)をおこすことになる。肥満に加えて高血圧症、高脂血症、糖尿病などの病気があると、一連の変化がいっそうおこりやすくなる。
超音波検査は、血管の内面を簡単にのぞくことができる、優れた方法なのである。
本章のポイントをまとめると、以下のようになる。
肥満の程度をあらわす指標としてはBMIが基本となる。それは体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割り算したものだ。
肥満をあらわす指標として、ウエスト周囲長をはかる方法も役だつ。
体重をはかるのは(一日中でもっとも体重が軽い)朝食の直前とする。
血圧、脈拍数、脈波伝播速度、心電図、眼底、頚動脈エコーなどの検査で、肥満が健康におよぼす影響を知ることができる。
次に、肥満によってどのような問題がおこるのかを具体的にみていきたい。
肥満は、どれくらい体に悪いのだろうか。
肥満は最終的に血管障害をおこす可能性をもっているが、同様のリスクをもつ因子(危険因
千)はほかにもいろいろある。生活習慣病という言葉が広く使われているが、その危険因子の多くも最終的に血管障害をおこすにいたる。つまり肥満だけではなく、生活習慣病を促進させる因子はすべて血管障害の原因となるのである。
この危険因子をいかに小さくするかが、さまざまな病気を予防する決め手となる。
男女で若干の差はあるものの、危険因子がほぼ共通していることがわかる。最上段が「年齢」となっているが、これは年をとるほど動脈硬化症がおきやすいことを意味している。
注目したいのは、BMIが女性で第三位、男性で第六位にランキングされている点だ。危険因子としての肥満の重要性が、ここでもしめされたことになる。既述のごとおり、肥満は高血圧の原因でもあることから、二重、三重に問題をかかえていることになる。なお最低血圧よく最高血圧の方が重要という話をすでにしたが、この表でもそれがしめされている。
このデータは、約二〇〇〇人の日本人の検査値を筆者が分析し、まとめたものである。この種のデータは、ほとんどが外国で調べられたものとなっている。血管障害の発生頻度に
は国による差が大きいが、遺伝子や生活習慣の違いによるも数値は血管内にたまったコレステロールの厚さとの相関係数と考えられている。
ところで、肥満には二つのタイプがある。
全身にポッチャリと脂肪がつくタイプと、腹部の周囲にだけ脂肪がつくタイプである。二つのタイプで、肥満の健康への影響も違ってくる。病気との関係が深いのは後者の方である。そこで、このタイプについて、もう少し理解を深めておきたい。
これは内臓脂肪型肥満、あるいは中心脂肪型肥満などともよばれている。言葉どおり、内臓に脂肪がたまるために問題なのである。このタイプの肥満は、子どもではあまりみられず、成人になってからのものがほとんどである。
内臓にたまった脂肪を正確に数値であらわすには、CTやMRIなどを用いるしかないが、
いずれも高価であることと、測定に手間がかかるため、集団検診や人間ドックなどでは実施することができない。幸い、内臓の脂肪とウエスト周囲の脂肪が比例することがわかってきた。
つまりウエスト周囲長をはかれば、内臓脂肪型肥満かどうかが、ある程度、予測できるのである。
へその高さの横断面で、脂肪の占める面積が一。。平方センチメートルをこえていると、いろいろな病気になる確率が高くなることもわかっている。このときのウエスト周囲長は、女性でおよそ九〇センチメートル、男性でおよそ八五センチメートルとなる。
これが、ウエスト周囲長の健康上の許容範囲ということになる。
最近、メタボリックシンドロームという言葉が話題になっている。一九九八年、世界保健機関が、肥満と糖尿病を結びつける概念として最初に定義をまとめた。メタボリックは
「代謝」、シンドロームは「原因不明で、症状や検査値が似ている一群の異常」という意味の医学用語だ。
その後、世界各国の政府機関や学会が定義を続々と発表しているが、それぞれ少しずつ異なった内容となっていて、混乱している。
たとえばアメリカ国立衛生研究所では、五つの条件のうち、三つ以上を満たす人と定めている。
一方、日本では、二〇〇五年四月に日本動脈硬化学会など八つの学会が統一見解を公表した。
それによると、内臓脂肪塑肥満がより重視されている。
しかし日本の定義に対しては、「諸外国の定義とかけ離れている」「基準に科学的根拠がない」「外国にくらべ厳しすぎる」など、批判も少なくない。
メタボリックシンドロームそのものに対する反論もあり、「病気の存在自体が疑わしい」「一
D一コレステロール億が含まれておらず世間に誤解を与えている」などともいわれている。また後述するように、少し太っている人の方が長生きするというデータもあり、その定義には振り回されないようにした方がよいだろう。
ただし、WHOやNIHなどが定めている本来のメタボリックシンドロームの定義は、さまざまな病気の関係を考える上で重要な、ある概念をしめしている。
中性脂肪が蓄積するのは脂肪細胞で、それには白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の二種類があることをのべた。また血液中の糖分は、すい臓でつくられるインシュリンというホルモンによって分解、消化の調節がなされているという話も思い出していただきたい。インシュ
リンの欠乏した状態が糖尿病である。
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